2014年5月25日日曜日

「ゲッカンタカハシゴー」誕生秘話・その1 〜憎めないドヤ顔〜

「あのなぁ、雑誌のタイトル、考えたんだよ」
「なんスかなんスか?」
「聞いて驚くぞ。すげえタイトルだから。あ、ちなみに反論は受け付けないから。もう、オレはコレしかねえと思ってんだ。なんでかって? それはさ…」
「カトーさん前置き長ぇよ。なんスか?」
「いいか、驚くなよ? いやホントすげえタイトルだから。どこで思い付いたかって、風呂入ってる時でさ。ウチの風呂ってのがこれまた」
「カトーさん前置き長ぇよ。帰りますよ?」
「わーった、わーった。そう急かすなよ。驚くなよ? 何しろオレが風呂に入りながら」
「帰ります」
「まあそう言うなって。しょうがない。じゃあ教えてやるか。雑誌のタイトル、『ゲッカンタカハシゴー』ってんだ。どう?」

加藤さんのドヤ顔が白い霞の向こうに消えていく。意識を失いそうだ。ヤバイヤバイヤバイよヤバイよ出川哲朗状態で気ぃ失っちゃうよヤバイよこのヒト何言ってんだろう……。

ドヤ顔の男・加藤裕さんは、最初のブログ記事(こちら)をお読みいただければ分かる通り、「RACERS」という雑誌の発起人である。「レーサーズ」は、簡単に言ってしまえば過去のレーシングマシンの振り返り雑誌だ。マニアックな視点に根ざしたネチッこい取材とネバネバと粘りまくりの熱いページ作りで人気である。熱くて粘る。つまり「レーサーズ」は、つきたて焼きたての餅のような、五目あんかけ焼きそばのような、油断すると上あごを火傷して皮がべろんと剥けちゃうような、ヒリヒリ感のある雑誌なのだ。

それ以前にも加藤さんは「ストリートバイカーズ」を立ち上げて新しいムーブメントを巻き起こしたり、写真/カメラの分野でも面白い雑誌を作ったりして、まぁでもホラ、出版業界全体からみれば大規模とは言えないまでも、各ジャンルに何らかのポジティブな傷跡および足跡を残しているヒトなのだ。

そんなヒトが、「ゲッカンタカハシゴーって雑誌を作るぞ」と、オレの目の前でドヤ顔キープである。何言ってんだこのヒトは……!?

言うまでもなく、タカハシゴーはオレの名前、「高橋剛」そのものだ。つまり加藤さんは、オレの名前を冠した雑誌を作ろうとしている。あいやちょっと待て、これ、バイク雑誌だったよな? バイク雑誌って、「ナントカバイク」とか「モトナントカ」「モーターナントカ」「ナントカマシン」「ナントカライダー」「バイクジンナントカ」って具合に、あ、最後のはナントカになってないか。とにかくバイクっぽい名前を付けないとダメなんじゃないの……? あ、そんなことないか。「風まかせ」ってのもあるな。「VIBES」もあるか。「VIBES」って、本屋さんでめくると必ずセンターの観音開きのページに折り目が付いてるんだよなぁ。なんでかなぁ…。

そんなことを考えているオレの心の内を読んだかのように、加藤さんはますますドヤ顔に磨きをかけ、鼻の穴を大きく膨らませながら、眼鏡の奥のちっちゃい目を光らせた。そう、加藤さんの目は、ちっちゃいのだ。ちょっとすぐには「コレ」と思い出せないんだけど、完全に何かのマンガのキャラクターだ。ディズニーの動物アニメの脇役小動物のようだ。つまり、ドヤ顔をしていても憎めない。

人の名前を担ぎ上げといて、なんでドヤ顔をしているのかよく分からない。だいたいなんでバイク雑誌なのにオレの名前なのかも分からない。いやそもそもからして、なんでバイク雑誌を作るって話になったんだっけ? そうだ。「ゲッカンタカハシゴー」のインパクトで忘れてたけど、もともとは加藤さんとオレの間でフワッとした感じで「雑誌作るかあ」って話になったんだ。それって、なんでだっけ?

「???」だらけのまま、オレは記憶の糸を辿る。ドヤ顔を続ける加藤さんの前で。まだドヤ顔だよ。いいよもうドヤ顔。飽きた。

……あ、ダメだこの話すげえ長くなるわ。いったんここで区切ろう。ではまたいつか。さようなら。


(高橋剛/もしかしたら続く)

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