2014年5月27日火曜日

「ゲッカンタカハシゴー」誕生秘話・その2 〜ロイホのカレーの果てに〜

そうだよなぁ。そもそも何で「雑誌作ろう」って話になったんだっけなぁ。……忘れたなぁ……。最近、人の名前や顔が思い出せなくなってきたんだよなぁ……。ヤバイよなぁ……。あれー、何を思い出そうとしてたんだっけー? うーん。あれー、ここどこだー? オレ、誰だー?

ところでこの一連の記事、「誕生秘話」などと銘打ってるが、実際の「ゲッカンタカハシゴー」はまだ誕生してないところがミソである。普通、逆だ。誕生して、成長して、存分に歴史を重ねてから振り返るのが「誕生秘話」である。それなのに、「ゲッカンタカハシゴー」はまだ生まれていない。そして皆さんが「で、結局どんな雑誌なんだよ!」「いつ出るんだよこの雑誌はよ!!」「いくらなんだよ値段はよ!!」「何も分かんねぇよ!!」と現実的にイライラされている目の前で、生まれていないモノの誕生秘話を悠然と書いているのだ。新しい……。

まぁいいじゃないですか。最近はホラ、誕生前でもDNAをチェックすればバババッとその人の行く末が分かっちゃうって言うしさ(←関連がよく分からない強引な例え)。何にしても誕生から立ち会うってのも、なんかこう、ドラマティックじゃないですかー(←鼻にかかる声)。

と、脇道に逸れまくっているうちに、そもそも何で「雑誌作ろう」という話になったのか、ぼんやりと思い出してきた。

オレは常日頃から、「1台でも多くのバイクを。ひとりでも多くのライダーを」と思っている。コロッと死んでしまいかねないリスクや、もろもろの不便不利益不都合を乗り越えてでも、1台でも多くのバイクが増えること、そしてひとりでも多くのバイク乗りが増えることは、我が国・ニッポンにとって大いなるブラスになると、大マジメに確信しているのだ(ズバリ、このあたりが「ゲッカンタカハシゴー」という雑誌の核になっていくと思う)。

「1台でも多くのバイクを。ひとりでも多くのライダーを」

その実現のために何をしたらいいのか、いろいろ考え、いろいろな人に話を聞いて回った時期があった。まぁ、「1台でも多くのバイクを。ひとりでも多くのライダーを」は、恐らく今後もずっと考え、聞き、話し、のろのろと前に進んでいきたいと思っているテーマなのだが、そういうタイミングで「レーサーズ」編集長の加藤さんと話をする機会があったんだ、どっかのファミレスで。カレー食いながら。ってことは、確実にロイヤルホストだな。

加藤さんは、オレが1992年初夏に4輪レース専門誌編集部「レーシングオン」で編集補助のアルバイトを始めた時、真上にいた先輩だ。以来、つかず離れずというか、基本的には離れていたが、たま〜に一緒に仕事をする機会もあったりなかったり、まぁつまりはそれほど濃密な関係ではなかったものの、何となく気になっていたことも特になく、要するにフグの刺身のように薄く淡泊な関わりだった。

そして、何をどう間違えたか、オレは「1台でも多くのバイクを。ひとりでも多くのライダーを」について、加藤さんにも相談したのである。そして打ち合わせと称するファミレス超長居ドリンクバーお腹たぽたぽミーティングを何度か繰り返しながら、「その実現のためにも(カトウ)」「実現のためにも!(タカハシ)」「雑誌を作ろうじゃないか!!(ふたり声を合わせる)」という話になったのだ。

この辺り、本当の経緯はよく覚えているのだが、あえてざっくりトバしている。これからやっていこうとしていることの根っこに関わる極秘事項だからだ。つまり真実の根っこは、ファミレスのカレーやドリンクバーで生成されているのだ。まぁ、その程度のものだと軽く受け止めていただければ。

さて、「雑誌を作ろう」という話になった最大の具体的な引き金は、オレが昔からツラツラと書いていた「バイクでスポーツする」というブログを、加藤さんが偶然読んだことだ。ある人物について検索していた際に、たまたまオレのブログがヒットし、何となく読んでみたら「おめ面白ぇじゃねぇかこのヤロー!」と鼻息が荒くなったらしい(このあたりは、すでに加藤さんがコチラで書いてますね。もう、なーんにも摺り合わせしないから、話がカブる超カブるスーパーカブはホンダが誇る世界の名車)。

「バイクでスポーツする」は、マジメな雑誌取材の中でオレが感じたけれど、マジメな雑誌記事ではなかなか書けない本音というか書き漏らしというか、書いたってどうせボツになるし的なネタをただひたすら思いのままに書き飛ばすだけのブログで、オレにとっては日々の業務および文字数制限から逃避するためのテキトーな息抜きの場だ。加藤さんが「フゴーッ、フゴゴーッ」と鼻息を荒くしながら「あのブログ、ホントにおめーが書いてるんだよな?」なんてコーフンするほどのもんじゃねえし、と思っていた。

しかし加藤さんの鼻息はさらに勢いを増し、ロイヤルホストのカレーがズズズッ、ズズッと皿ごと動き始めたではないか。そして、ついに、こう言ったのだ。

「ごう、おめー天才だよ!」

出っ、ででっ、出たーーーッ、出ました、出ちゃいましたよ「ごう、おめー天才だよ」。久々に聞いたぜこの言葉! あの時と一言一句変わっていない。オレは決して忘れない。かつてオレはこの言葉を信じ、加藤さん先輩オレ後輩時代に、痛い目に遭ったのである。

当時、レーシングオン編集部の編集補助アルバイトだったオレは、とにかくもう何でもいいからカキたくてカキたくて覚えたての中学生状態だった(何を?)。ひたすら書きたくて仕方なかったのだが、「バイトは原稿書いちゃダメ」が編集部の決まりだった。しかし加藤さんはナイショでオレに「ごう、おまえ書きたそうじゃんか。書いてみる?」と、差し障りのないちょっとした原稿を書かせてくれたのだ。

バイトの身分で商業誌に記事を書くなんて、畏れ多い……。でも書かせてもらえるなら書きたい……。緊張しながらも楽しく、サササッと書いた原稿をおずおずと差し出すと、加藤さんはそれをしげしげと眺め、こう言ったのだ。

「ごう、おめー天才だよ」

うれしいですよ、そりゃあ。生まれてこのかた自分を天才だなんてタダの一度も思ったことないから、「またまたぁ加藤さん、ご冗談をぅうぉっほぅ……」なんて言いつつも、そりゃあ褒められりゃ誰でもうれしくなってしまうもんだよ許してくれよまだ22、3歳だったんだよ……。

「ごう、すげえよおまえ。ホント天才。これも書く?」
「書きます書きます何でも書きます」
「え? これホントにおまえが書いたの? 天才。おまえ天才。ところで、これも書いちゃう?」
「書くーっ、書きますーーーっ!! 書く、書くから、書かせてーっ!」
「うわ、マジですげえや。いやぁ、こんな天才がド田舎の埼玉県入間市に埋もれてたとは驚いたよ。ちなみに、特別にこっちも書いてみる?」
「かっ、書かせて、書かせろてめーーーっ!!!」

このような繰り返しが延々と続いた。そしていつしかオレは書くことがすげえ好きになり、後のライターとしての基盤……っていうと大げさだな、まぁ何かオレの将来につながるひとつのきっかけになったのだったのだったのだったのだ、みたいに、とにかく無闇にキーボードを叩くことが好きになった。「パブロフの犬」ですね。オレは加藤さんの顔を見ると条件反射的にキーボードを叩く「カトウの犬」、すなわち「カトロフスキーの犬」となり、完全に刷り込まれたわけです。「キーボード叩く→褒められる」と。

しかし「カトロフスキーの犬」は幻想だったと、後に思い知らされることになる。レーシングオン編集部を離れ、あちらにぶつかりこちらで転び、を経てフリーになったある日、たまたま加藤さんと再会した。オレは加藤さんに礼を言った。
「いやあ、加藤さんが『ごう、おめー天才だよ』と言ってくれたバイト時代の喜びが、ライターという仕事にまでつながっちゃいましたよ」
それを聞いた加藤さんの返事! これもオレは一生忘れない。加藤さんは例のごとく眼鏡の奥の小さな目をぴかぴかぴーと光らせて、こう言ったのだ。

「え? そんなこと言ったっけ? マッジッで?(←似てる)。全ッ然覚えてねえやハハハ。いやあ、おまえはおだてればおだてるだけ、どんどんオレの仕事を肩代わりしてくれたからさ。おかげでずいぶんラクさせてもらったよハハハハハ。じゃ、よろしっく(←すげえ似てる)」

し ん じ ら れ な い !

アイーンとアゴが外れた。ガクーンとヒザの力が抜けた。力石徹のアッパーカットを食らった矢吹丈のようだった。つまり、「ごう、おめー天才だよ」は、加藤さんが体よくオレをだまし、自分の仕事量を少しでも減らすための謀略のキーワードだったのだ。恐ろしい。オトナって恐ろしい。このままじゃ尻の毛まで抜かれてしまう。ひー、おケツがスースーするー!!

という臀部清涼感を、オレは久々に思い出していた。そして加藤さんの荒い鼻息で飛び散ったロイホのカレーを、涙を流し歯を食いしばっておしぼりで拭きながら、「ぜってーだまされねーぞ。今度はぜってーだまされねーからな!」と固く誓っていた。「何だよ『ゲッカンタカハシゴー』って。そんなバイク雑誌、あるワケないじゃん。もう、人の名前をバカにして。おもちゃじゃないんだからね!!」と。握りしめたおしぼりから、黄色いカレー汁がしたたり落ちた……。

実際、誌名は最後まで議論の焦点となった。いや、なってない。だって加藤さん、まるで聞く耳を持たねーんだもん。オレは「やだーやだー別の名前がいいー」とダダをこねていたけど、加藤さんを始め他の関係協力各位の誰も異論を唱えなかった。なんで? 変だよ。オレ、自分の名前嫌いだし。

しかしまあオレとしても、自分の中にフツフツと沸き上がる「何か」があった。既存の雑誌仕事では書き表せなかったけど、「これって実はバイクって乗り物の本質なんじゃね?」と感じる「何か」。

「ゲッカンタカハシゴー」という冗談のような誌名や、加藤さんのドヤ顔の是非はおいといて、もし雑誌を通じて、バイクやバイク乗りの本質的な面白さや素晴らしさを世間様にお知らせできるなら、もっけの幸いだな、と思った。

……もっけ?
……もっけって何だ?
……モッケ? 藻ッ毛? なんかモサモサした緑色の毛?

よく分からないが、とにかくオレを天才呼ばわりしてダマそうとする加藤さん、そしてダマされていると分かっていながら何か面白いことになりそうだからやってみっかと思うオレの利害つうか損得勘定つうか取らぬ狸の皮算用が何となく一致し、雑誌作りがボチボチとスタートするのであった。これが恐らく、今から2年ほど前の話である。あれ? そうだったかな。3年前? あれー? いつだっけな? あれえ? オレ誰だっけ?


(高橋剛/「もっけ」って「物怪」って書くのか!)

5 件のコメント:

  1. ふざけんなよ。 おもしろすぎる。
    絶対買うから早く創刊して下さい。
    田舎だからコンビニで予約出来る様にしてね♪

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  2. 買うからな!本屋も無い田舎だけど。

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  3. >匿名さん
    早期創刊をめざして鋭意地盤固め中です。

    >hideki yamauchiさん
    コンビニもないはず!

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  4. 「ごう、おめー天才だよ」は高橋剛を踊らせる魔法の言葉っすね(笑)。オレも剛さんの文章は大好きなんで、「剛さん、あんた天才だよ」と思ってますよー。
    ゲッカンタカハシゴーがどんどん面白くなるようにもっともっとダンシングしちゃってください!!

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  5. >MJさん
    その手は桑名の焼き蛤。

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